「大麻使用罪」の創設に反対します
真面目にマリファナの話をしよう
厚生労働省が大麻取締法の対象に「使用罪」を追加することを検討するために有識者会議を開催する、というニュースが飛び込んできました。日本の大麻取締法は1948年にGHQの指導のもとで制定されたものです。その後の医学研究により、大麻には信じられていたような有害性がないこと、医療・ウェルネスにおける効能があることなどが国際的コンセンサスとして確立したことを受けて、近年、大麻取締法の改正を求める声が大きくなってきたにもかかわらず、日本政府がむしろ取締法強化の方向へ動こうとしていることに驚きを禁じえません。
現行の大麻取締法が禁じるのは、栽培、売買、所持です。ここに使用が含まれないのは、もともと法律が制定された1948年には、しめ縄などに利用するために大麻を栽培していた農家が大麻から出る気を吸い込む可能性が指摘されたため、と言われていますが、そもそも「使用」の立証が容易でなという問題もあります。
大麻の使用が罪に問われるようになった場合、何が起きるかを想像してみましょう。「使用」が疑われた場合、それを理由に尿や毛髪の検査に持ち込むことが可能になるでしょう。当然逮捕される人の人数も増えることになります。日本で大麻の罪に問われると、解雇される、家を追われる、家族に絶縁される、といった凄まじい社会的制裁を受けることになります。被害者不在の「罪」で人生が破壊される人が増えることが、社会をどう改善してくれるのでしょう?
厚生労働省は、なぜ今このタイミングで、大麻取締法を拡大しようとしているのでしょうか?
この背景には、止めることのできない大麻をめぐる国際的コンセンサスのシフトがあります。世界の大麻規制の歴史、1950年代のイスラエルに始まったカンナビスの医療効能の研究、解禁運動と近年雪崩のように起きた合法化の波については拙著「真面目にマリファナの話をしよう」(文藝春秋:AMAZON)にまとめていますが、国際的には、大麻には様々な医療効能があるということ、またその依存性も、アルコールやタバコといった嗜好品に比べて特に高いわけではないことが、科学的研究によって裏付けられた「事実」として確立・共有されています。
直近では、WHOによって2019年2月に出された勧告に従って、2020年12月に国連麻薬委員会が医療使用目的の大麻を、もっとも危険なドラッグ指定「スケジュール1」から削除することを可決しました。アメリカで1月20日に発足するバイデン政権は、カンナビスの非犯罪化にコミットしており、上院の過半数を民主党が持った今、実現のはほぼ確実と見て間違いないでしょう。
このタイミングで厚生労働省が規制強化に動こうとしているのは、日本はこの路線には追随しないという意思表示でしょうか。
日本のカンナビス政策やドラッグ規制について取材をしていていつも衝撃的なのは、厚生労働省という公衆衛生を管轄する省が、科学的データや医学研究よりも、レトリックを優先することです。大手報道機関の多くが、厚生労働省の発表をそのまま報じるため、事実でないことが事実として流布されます。
★大麻取締法 新たな罰則検討へ 近く有識者会議立ち上げ 厚労省(NHK)
たとえばこのNHKの記事では、大麻をゲートウェイドラッグと位置づけていますが、これは長らく大麻規制緩和論者たちによって使われてきたレトリックです。実際に大麻の使用がハードドラッグにつながるという説を証明するデータはないのです。また、
海外では、カナダやウルグアイなど大麻の使用を認めている国もあり『海外では合法化されているから安全だ』などと誤った考えが広まる要因になっているとされていますが、こうした国では合法化せざるを得なかったという事情があります。
と書かれていますが、この事実もありません。合法化国は、医学的データを尊重し、経済的機会と医療面での効能を認識し、管理・規制しながらカンナビスを流通させることで、雇用を創出し、新たな財源を作ることに成功しました。そして、何より、カンナビスを合法化したことで新たな問題が起きたりもしていません。
アメリカの合法地域では、COVID社会においてもカンナビスの販売・流通は「エッセンシャル」なビジネスとして指定されました。疾患の治療や痛みの緩和から、不安や不眠症などとのメンタルニーズに応えているからです。
日本には刑法二条というものがあって、大麻取締法にはこれが付帯されているため、日本国籍保有者は、海外の合法国であっても、カンナビスの使用が許されていません。私はこれは、日本人の医療へのアクセスを阻害する人権侵害だと考えています。ですから、時代に逆行する使用罪の創立には断固反対です。
★弁護士の亀石倫子さんがChange.orgの署名を立ち上げてくださっています。
大麻に対する姿勢に見られる厚生労働省の科学軽視、そして、日本の報道機関による政府の公式発表追随は、今回のパンデミック対策でもいかんなく発揮され、現在の惨状に大いに貢献しているような気がしてなりません。
★参考:大麻使用罪の創設に反対します(GreenZoneJapan)
上の署名では、世界のドラッグ政策が、ハームリダクションの見地から、処罰から治療にシフトしようとしていることにも触れています。
かつて国民の10人に1人がヘロイン中毒という状況に陥ったポルトガルは、2001年にドラッグの完全非犯罪化に踏み切り、ドラッグ依存者にセラピーや治療を供給することで、ドラッグ関連の死や中毒者の数を激減させることに成功しました(European Monitoring Centre for Drugs and Drug Addiction)。疫病の終焉が見えない中、国民の不安や経済的困窮が厳しくなるなか、日本政府に必要なのは、こういう視点ではないでしょうか。
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