Sakumag 週報 05/09-05/15/2022
中絶マーチに参加してきた
週末の銃乱射事件とGreat Replacement Theory
第二次南北戦争の可能性
夏の旅シーズンを前に
今週の組合運動
クリプト市場のクラッシュ
イーロンとTwitterのサーガ
土曜日は、中絶の権利が取り上げられようとしていることに抗議するために全米で展開されたマーチ「Bans off my bodies」に参加してきました。ちょっとわかりづらいかもしれないこのハッシュタグですが「私たちの体に禁止条項をつけるな」とでも訳せば良いでしょうか。中絶のみならず、市民の体やアイデンティティを支配する法律がどんどん立案される現状に対する抗議の意味合いも込められていたようです。
ニューヨークのマーチは、ブルックリンのCamden Plazaを出発してブルックリン・ブリッジを渡り、シティホール(市庁舎)前の集会で終わるコース。ネオングリーン、なければ緑の服を着ろとの司令と集合場所の案内を頼りに現場の近くまで行くと夥しい人の波が。シティバイクで行ったはいいけれど、どこのドックもいっぱいで、そんな当然のシナリオを予想しなかった自分を呪いつつ、なんとか友人のじゃいこちゃん(@jaisuki)が参加するグループ、@Thankgodforabortionと合流して、マーチを歩きました。
今回のデモは、これから6月に起きるであろう最高裁の正式な判決と、11月の中間選挙まで続く「Summer of Rage」(怒りの夏)のキックオフで、全米450都市で行われ、100万人以上(主宰者発表)が参加しました。歩いている最中に、ニューヨークの上院議員で上院の院内総務でもあるチャック・シューマーがやってきて演説をし、マーチャーたちの熱気を盛り上げて行きました。シューマーは民主党のいわばエスタブリッシュメントの古参の老人で、苦言を呈したいこともたくさんあるのですが、それでも現場にやってきて民衆と一緒に歩いたり、聴衆ひとりひとりに目線を合わせる作法にはさすがの貫禄を感じました。デモの終点の集会会場では、音楽のパフォーマンスが用意されていたり、様々なエスニシティを代表するアクティビストたちが各国語で演説をしたり、真面目さと祭りの要素がほどよくミックスされていて、ニューヨークの政治運動に参加することの醍醐味を思い出しました。マーチに参加することの背景には、集合的怒りがあるわけですが、こういう時代だからこそ、集まって怒りを表現するという行為の中にも、楽しさがあるからこそ、みんな続けていけるのだと思うのです。
歩いている最中に、トランプが大統領に就任した2017年1月に、DCまで行って参加したウィメンズ・マーチを思い出しました。トランプが選挙運動の最中から、中絶を「嬰児殺し」と位置づけていたことから、あのマーチには、トランプ大統領が保守の判事を任命し、中絶を違法化するのではないかという懸念が、漂っていました。改めて、その懸念が5年後の今、現実になったのだと思うと、いまだに信じられないような気持ちです。
@Thankgodforabortionは、じゃいこちゃんの古い友人、ビバ・ルイズが始めた団体です。カトリック教の移民の家庭で育ったビバは、トランプが登場するずっと前から、無料で安全な中絶のアクセスを万人にという「中絶の権利」を謳っていた人なのですが、今回マーチの途中、中国系のメディアに取材を申し込まれて話を振ったところ、彼女が「中絶が合法であったとしても、金銭的なハードルによってアクセスできない貧困の女性がいる」という話をしているのを聞いて納得しました。ビバのグループにはクイアやノンバイナリーの人も参加しているのですが、じゃいこちゃんがあとで解説してくれたところによると、ビバは、男性たちが中絶をコントロールしようとすることに家父長制度の存在を見ていて、それは非異性愛やアイデンティティをコントロールしようとすることにもつながっていると、トランプ以前から説いていたというのです。しかも妹やラッパーの従兄弟が参加する家族ぐるみのオペレーションです。
歩きながら考えたのは、中絶のまわりに存在する沈黙です。先週、私自身も中絶をしたことがあるということを初めて公に書きましたが、多くの人が体験することながら、共有されることがほとんどないのです。その背景には、やっぱり中絶にまつわる罪悪感や恥、スティグマがあって、私自身もそれに囚われてきたのかもしれません。今、実際に中絶が禁止される地域が増えつつある中、ようやく共有されるようになったストーリーを追っていると、自分が想像していた以上に、中絶をするという決断の裏には、実に多様な経済的・健康的な理由があって、つくづく自分の世界が小さかったことを思い知ります。そして、これまで中絶のことを「女性が自分自身の体について選択する権利」と思ってきましたが、中絶は医療の一部でもあり、また労働者の権利でもあるべきだと考えるようになりました。
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