Sakumag 週報 1月11日
あっという間に正月の「休み」も終わってしまい、気がつけば業務に埋もれていて、一体自分は正月の間、何をしていたんだろう?と振り返ってみたところ、年始に配信される記事を書いたり、会計やコンピュータのファイルの整理をしたり、深夜までアメリカ議会のドラマに夢中になったり、なんだかなんだとやっており、おそらく多くの人がそうなのではないかと思ったら、「休み」ってなんだよ、という気持ち。結局、「今年の目標」などにもたどり着かずに、休んだような、休まなかったような、ぼんやりした感覚で2023年に突入したわけですが、そんなものかもしれません。
年賀状というものを書くという習慣からも遠ざかって久しいのですが、居候中の実家には親宛の年賀状が少ないながらも束になって届いていて、何気なく見てみると、どこどこでワインのペアリングをしたとか、子供が出世したとか、孫がどこどこ学校に受かったとか、70過ぎても年賀状でマウンティングを頑張っている人がいて、人間ってなあとため息をついたりしました。
思えば、子供時代から問題児だった自分は、マウンティングの取り合いの溢れる小さな世界からいつも脱出したくて、一人でいろんなところをうろつき仲間を探していたように思います。東京にいる間は、自分の通う学校や、自分の街の外の地域にコミュニティを発見し、それがどんどん遠くになって、最終的にはアメリカだったのかもしれませんが、うっかり身の丈に合わない白人エリート学校に入ってしまったことから、アメリカでも、学校の外に自分のコミュニティ/仲間を探しにいくことになりました。
最近、子どものための本を書く、という新しいオファーをいただき、子ども時代に感じていた孤独や、自分の居場所があると感じるまでの自分のジャーニーについて振り返っていたのですが、結局のところ、私に響く価値観というものが、自分のいた場所に見つからず、散々、徘徊・放浪した結果、自分の今の職業の形やアクティビティにつながったのかな、と今になって思います。
今夜は、Sakumag Study Vol. 33として、日本時間21時から、汽水空港のモリタツヤさん、ヤマザキOKコンピュータさんと「スピらずにスピる」をテーマに話をします(参加/アーカイブ申し込みはこちらから)。モリさんの同名のエッセイのURLを見ていたら、「faith」という言葉が使われていました。信仰のことを指すときもあるし、信条という意味で使われることもあります。コロナ禍が起きて、自分の「信ずるところ」が揺るぐのを感じることが増えました。同時に、自分が行動の指針やルールとしてきたことを、果たして正しいのだろうか、と疑わなければならない機会も増えてきた気がしています。「世の中の最低限のルール」や「前提」のようなものがどんどん崩れる中、自分が頼りにしてきた価値観のようなものすらもはや確実ではないような気すらしてしまうのです。
と、ここまで考えて、数年前にベルリンで訪れたJewish Museum Berlinの「Fallen Leaves」という作品を思い出しました。人の顔を模した無数の鉄片の上を歩かせるインスタレーションは、自分の暮らしていた土地から追われたユダヤ人たちの体験をイメージしたものだということだったのですが、その上を歩くことはなぜそれを急に思い出したのかといえば、学歴・職歴・人種アイデンティティまでを偽ってニューヨーク州選出の下院議員になったジョージ・サントスが、今回の議長選挙の決議でケヴィン・マッカーシー議長に賛成票を入れながら左手で白人至上主義のサインを出したのを見てゾッとしたからかもしれないし、最近のカリフォルニアの豪雨で南カリフォルニアの広域に避難勧告が出て、多くの人が家を追われる姿を見たかもしれません。
今、少なくとも私が立っている物理的な地面は強固なアスファルトですが、気候や環境の専門家たちが警告する「1.5度上昇」が現実になった場合、私たちの暮らしや安全が脅かされるだけでなく、その先には人種や所得によって命が選別される未来が待っていること、そしてその現実はどんどん迫っていることを考えると、落ち込んでいる時間はないのだと目が覚めるような気持ちになります。
2023年、最初の仕事は、先日紹介した『ザ・カーボン・アルマナック』日本語版を監修した平田仁子さんへのインタビューでした。私のようにそのときどきの時流を追いかけてきた人間と違って、90年代から気候変動をイシューとして活動されてきた平田さんから、世界情勢や政治的な環境の変化の波に揉まれながら、また意図的なミスインフォメーションがどんどん製造される中、日々、頭を捻っていろんなボールを繰り出し続けてきた実体験から生まれる知恵の一部を分けていただいたような体験でした。1年のスタートをダラッと始めてしまった自分にカツを入れてくれるような仕事でもありました。平田さんのインタビューは、ナショナル・ジオグラフィックのサイトで1月末に掲載予定です。お楽しみに!
👉次回のSakumag Studyは1月25日21時から!
👉1月28日に東京でSakumagの2周年のイベントを開催します。
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