『We Act! 3 #男性特権について話そう』試し読み
*今週の佐久間裕美子による週報はおやすみしますが、『We Act! 3』の編集を担当してくれたmaoさんが、試し読みのポストを作ってくれました。今週の「Sakumag Slackから」は巻末に掲載しています。
ついに『We Act! 3 #男性特権について話そう』が完成しました。
制作にあたっては、座談会やエッセイ、アンケートなど、男女問わずたくさんの方が参加し、語られにくいこの問題と向き合いました。
まずは10月27〜30日に東京現代美術館で開催されるTOKYO ART BOOK FAIRにてお披露目します。
また、本書の制作費を捻出するために、10月31日までクラウドファンディングを実施しています。ぜひ支援や拡散をお願いします!
For Good「生きづらさをなくしたい! 男性特権について考えたことを本にします!」
クラファンを盛り上げるために、本の中身を一部特別に公開します。
離婚をきっかけに男性特権を意識するようになったというKKさんのエッセイです。
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離婚して初めて気づけた男性特権
2020年の春、離婚をした。正確に言うと、離婚されたのだが、理由はコロナ禍ではなく、子供が大学生になって子育てに一区切りついたこと。3年くらい前から話を切り出されてはいたものの、まさか自分の身にそんなことが起こるはずは⋯⋯と思っていたのがあっけなく現実になった。
私は昭和の終わり、田舎で、両親と男兄弟3人、あまり会話のない家庭で育った。DVなどもなく、ソフトな家父長制。男はベラベラ喋るものじゃない、というふうに育てられ、思春期以降にお付き合いさせていただいた女性もいたが、お互いの内面を掘り下げるような深い会話をした記憶はあまりない。勉強して良い大学に入り良い会社に入るのが人生の幸せ、みたいな考え方に疑問を持たずに生きてきて、結婚して子供が生まれ、家を購入し、仕事もなんとか順調、と思っていたところで、離婚を切り出されたのだった。
それまでも、些細なことから何度か喧嘩はあり、その都度自分が謝って終わる、というのがパターンだった。妻からは「本当に悪いと思ってないんだったら謝らないで」といつも言われていた。例えば、幼かった息子の友だちのピアノ発表会に行ったとき、席で寝てしまったのを責められた。「〇〇くんの家の人に失礼だと思わない?」「もちろん失礼だとは思うけど、毎日仕事で疲れてるんだから仕方がないよ、生理現象は止められないよ」
当時の私は自分の正しさを疑わず、相手の言うことを理解はしてもそれに共感することはできていなかった。自分はそう思わない、きみとは考え方が違う、で止まってしまい、自分の「正しい」意見を押し通す。しかし結果、「ボットみたいに心がない人」「自分のことしか考えていない人」と思われるようになってしまった。喧嘩のたびに相手がなぜそんなに怒っているのか理解できず、いつも「わからない」と呟き、黙りこむ。そんな私に妻は疲れてしまい、離婚を決意した。
しっかり仕事をして、家族を養うこと。仕事ではポジションを維持し、さらに上を目指すため、また自己実現という意味でも、強く正しく負けないように日々戦うこと。一方で、家に帰ればおいしい食事があり、子供のことも家のことも近所付き合いも、全部妻がやってくれるのが当たり前。という、自分の育った家庭環境とその延長線上にある価値観を疑わず、 そこにすべてのエネルギーを注いでいた。しかしそれは、自分がケアされるばかりで、ケアしてくれる相手をケアしないでいられるという男性特権の構造が支えていたのではなかっただろうか。ケアされていることに無自覚でいるのは、裸の王様でいるということで、そうやって甘やかされてきたツケが、結婚生活を破綻に追い込んだように感じている。
離婚して、息子まで失ってしまうのではと不安になった。息子と初めてじっくり話し合ってみると、彼も父親のことを感情のない人間と思っていたらしく、ちょっとショックだったが、その時間は、自分の感情や考え方を整理する契機になった。離婚してからは、息子と自分のために料理をするようになった。流しや浴室の排水の掃除などもやるようになって、地味ながらため息が出る仕事だと初めて知った。朝ヨガも始めた。
最近になって「caringmasculinity(思いやりのある男性性)」という言葉を知ったのだが、まさに自分に必要だった部分ではないかと感じ、しっくりくる。息子や若い友人たちとのやり取りを通じて、自分の考えや感情を丁寧に表現して伝え合うことがお互いの信頼感や安心感につながること、人を喜ばせることは自分にとっても喜びになることなどが身をもって感じられ、そこに、他者とともに生きる人生を豊かにする可能性があるのでは、と遅まきながら思っている。
離婚した当初は、人生を失敗してしまったと自分を責めるばかりだったが、男性特権に気がついた目で世界を見てみると解像度が少しだけ上がったようにも感じ、自分を徐々に好きになれそうな気もしている。
KKさんプロフィール: 離婚と同じタイミングで始めた朝ヨガで体重が10kg減。鶴〇郎さんみたいになっちゃうの!?と一瞬焦ったが、いまは7kg減くらいに戻り、ひと安心している。
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